『ダークマターの謎に迫る 見えない宇宙の正体』(鈴木 洋一郎著、講談社ブルーバックス、2020年11月20日)

宇宙にある物質とエネルギーで68%がダークエネルギー、27%はダークマターである。ダークマターは直接検出できていない。 

結局のところ、ダークマターはあるのは確かとされて、観測の試みがいろいろなされているが、いまだに発見できていないといことのようだ。

で本書は面白くない。難しいことを難しいままに面白くなく書いている本だ。買うのはお勧めしない。

『外資系アナリストが本当に使っている ファンダメンタル分析の手法と実例』(松下 敏之・高田裕共著、プチ・レトル株式会社、2017年7月発行)

企業のファンダメンタルを分析する手法についての本。ファンダメンタル分析とは企業の実際の活動を分析し、評価する方法。株価は企業が将来生み出すキャッシュフローを期待して決まるということを前提とする。必然的に長期的な視点となる。但し、長期的に株式を保有することと、長期視点で分析することは違うという。

アナリストには証券会社などに所属するセルサイドのアナリストと、本書の著者のようなバイサイドのアナリストがいる。

株価の評価を行う二つの方法

DDM(Divided Discount Model:配当割引モデルDDMは株主が将来に渡って得るキャッシュフロー。永遠に持ち続けるなら配当の総和である。売却を想定するなら配当の総和と売却益を合算したもの。(配当をコントロールできない少数株主向け)

・DCF(Discount Cash Flow)DCF法は事業価値を企業が将来に渡って生み出すキャッシュフローを現在価値に割り戻した総和と考える。企業価値は非事業性資産と事業価値の総和。株式価値は企業価値ー負債。 

現在価値と将来価値

現在価値=将来価値÷金利

100万円=X÷1.02

金利2%のとき、現在の100万円の1年後の将来価値は102万円

将来の100万円の現在価値は100/102=98万円である。

資本コストは企業が投資家に資金調達の見返りとして払う最低限のコスト。

資本コスト=投資家の要求収益率=割引率。

現在価値=将来価値÷資本コスト

トータルリターン

インカムゲインと配当の合計

DDMは、永久に配当を受け取るとしたときの株式価値の計算だが、途中で売却したことを考えれば、DDMはトータルリターンで考えることに相当する。

DDMの3つのモデル

a. 配当額固定: 株式価値=配当額/資本コスト

b. 配当額一定成長: 株式価値=初年度配当額/(資本コストー配当の成長率)

株式価値=時価総額 とすると、式は次のようになる。

配当利回り=配当額/時価総額=資本コストー配当の成長率

c. 二段階成長モデル(ある期間まで配当を予想し、その後は一定成長を予想する)

PERとの関係

PER=時価総額/純利益

時価総額=PER×純利益

1年後の目標株価=PER×1年後の純利益

PER(0-1):1年後の純利益予想から見た株価

PER(0-1)=1年後の配当性向/(資本コストー配当の成長率)

つまり、PER(0-1)が上昇するのは次のケースとなる。

・資本コストが小さくなる

・成長率が高くなる

・配当性向を上げる

PERが高いのは、①割高、②成長率が大きい、③リスクが小さいとき。

※本書を読むと、ある程度基本的な考え方が分かる。実践編は事例として面白い。 

『「第二の不可能」を追え! 理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャッカへ』(ポール・J・スタインハート著、みすず書房、2020年9月1日発行)

200年もの間、多くの人に常識としていた信じられてきた結晶学の原理をやぶる準結晶の理論を発見する。ついで実物の探索、そしてそれがどこでできるか探索するというという果てしない知的冒険の物語である。

正20面体はどの頂点から見ても正五角形が見える。しかし、五回対称性は空間を埋め尽くせないと考えられていた。しかし、コンピュータシミュレーションをみると、拡張できそうだという予想からスタートする。これは超ハイリスクな研究テーマであった。

最初の法則の抜け道の部分は、理論的な抜け道を見つけた部分は、理屈だけで分かりにくく、つまらない本だなとという印象だったが、途中、実際の物質の話が出始めてから素晴らしく興味深く、引き込まれた。

実際にその物質が人工的に合成できることを想像したところ、実際に作り出した人がいた。最初に人工合成物から発見したのはダン・シェヒトマンである。しかし、スタインハートのチームは当初その研究結果を知らなかった。シェヒトマンが理論構築を依頼したのは別の研究者である。シェヒトマンチームの論文を見た著者たちのチームは慌てて理論論文を出す。

1999年自然界にあるかどうかの探索を行うが成果はなし。2007年イタリアのルカ・ビンディが探索に加わる。2009年1月2日カティアカイトのサンプルの中に準結晶であることを確認し、自然界にあったことがわかる。しかし、誰もそれが自然界にあったことを信じない。

これについての探索と論文掲載の過程がすばらしい。賛成派と反対派のチームを作り、徹底的に検討すると同時に、失敗を恐れずに科学的な検査を行う。これが科学の精神といえる。

その鉱物がカムチャッカで収集されたことを突き止めて、自分たちでチームを作りカムチャッカまで探索に行く。集めた試料から、その鉱物が宇宙で生成されたことを突き止める。

科学の世界においても、成功するのは強い意志、絶対にあきらめずに追及する心であることがよく分かる。一つの科学的テーマでも成功するには30年もかかるという。成功の哲学を伝える本でもある。今年読んだ最高の本の一冊といえる。

『「バカ」の研究』(ジャン=フランソワ・マルミオン編、亜紀書房、2020年7月15日発行)

「バカ」とはなにかを真面目に論じている。

バカと愚かは違うらしい。

フランス人でないとこういう本は作れないような気がする。

 

『アメリカ経済 成長の終焉 上』(ロバート・ゴードン著、日経BP社、2018年7月24日発行)

1870年から1970年までを「特別の世紀」と名付ける。この間は、電気、交通手段、食料保存、水道、医療、労働環境、住宅などすべての面で生活を変えた。この間の米国の経済成長は、特別なものであり、一度きりであることを主張する。1970年以降の変化は、娯楽、通信、情報技術に限られる。

GDPの限界、生活水準を測定できない点に注意すること。

1890年から2014年までのうち、1920年から1970年に労働生産性は大幅に上昇した。教育水準と資本の進化はあまり変わらないが、全要素生産性TFP)が伸びた。

1851年クリスタルパレスに出展された米国の機械に欧州人が驚いた。1869年大陸横断鉄道の接続を記念してゴールデン・スパイクが打ち込まれた。

第一次産業革命は、蒸気エンジンとその派生技術による。鉄道と蒸気船の発達。

第二次産業革命は、19世紀後半の電気と内燃機関による。空調、自動車、州間高速道路、航空機、娯楽の発達で、アメリカの各家庭の生活水準が大幅に向上した。

第三次産業革命は、1960年に始まる情報・通信技術による。

1870年から2015年の中で、1870年から1920年1920年から1970、1970年から2014年にわけると、1970年までは生産性や一人当たりGDPが急速に伸びた。これは第二次産業革命の効果が大きい。しかし、1970年以降は減速している。第三次産業革命は、娯楽、通信、情報分野なので範囲が狭い。

1870年の状況:

明かりは、ろうそく、鯨油、街頭から。製造業の動力源は蒸気エンジン、水車、馬、都市内部の移動はもっぱら馬に頼る。食料保存はできず、都市部では不衛生な肉、調理用燃料は薪や石炭。布・針・糸を使って家庭で作る衣料品。電気はなし。水道水、浴室、水洗トイレがない。都市の安月給の労働者は狭いアパートに暮らす。ものと人の移動は鉄道と馬。1872年北東部のあらゆる都市で馬の伝染病。1870年の新聞読者は260万人。出生時の寿命は45歳。医療従事者は免許なし。下水は濾過されないことが多かった。農業労働者が46%。

変化のスピードが速かった。1880年に電気が来ている家庭は1軒もなかったが、1940年には都市部の電気の世帯普及率は100%近くなった。上下水道の普及率も94%に達した。フォードT型モデルは1908年後半に生産開始、1927年まで生産され、累計生産台数は1500万台にのぼった。自動車の大量生産により馬から自動車に代わった。馬は扱いや馬糞などの始末が大変で疫病の元でもあったが、それがなくなったのは大きい。その他、健康、労働環境の改善など。1920年代は病院建設ラッシュ。消費者信用。

『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(J.D.ヴァンス著、光文社、2013年3月20日発行)

連邦政府の住宅政策は家を持つことを国民に進めてきたが、家を持つコストは大きい。ある地域で働き口がなくなると、家の資産価値が下がって、その地域に閉じ込められてしまう。ミドルタウンはアームコによってできた。

ブルーカラーの仕事は良くないと思っていて、自分は働かないのに働いているという。

政府は生活保護をもらって何もしていない連中に金を払っている。

工場に依存するコミュニティは脆弱。工場がなくなると教育レベルが高いか、裕福か、人間関係に恵まれている人は去る。しかし、貧しい人が取り残される。

大学に進むには巨額の金がかかる。

海兵隊の新人訓練。「言い訳をしない」「全力を尽くす」を学ぶ。

オハイオ州立大学がコロンバス発展の後押しをする。

イェールの奨学金は貧乏な学生に篤い。しかし、ロースクールの95%以上は中流階級かそれ以上の出身者で占められている。

アイデンティティを考える。

成功者は違うルールでゲームをする。社会関係資本。イェールのネットワーク。

逆境的児童期体験で心の中に悪魔が生まれる。

ヒルビリーにとっては、本当の問題は家庭内で起きている。

『政治の起源 人類以前からフランス革命まで 上』(フランシス・フクヤマ著、講談社、2013年11月5日発行)

国家がどのようにして生まれたかを探求する。ヒトとチンパンジーのゲノムは99%重なっている。自然状態ではチンパンジーの凶暴性は、ニューギニア高地の人間の男による襲撃行為と似ている。人間の方がチンパンジーより残虐である。人間は言葉をもつことで社会組織を作った。

人間の社会組織の原始形態は部族型。狩猟採集民は群れの段階、農耕社会で部族性が始まった。宗教と血縁が大きな影響力をもつ。部族社会は群れよりも軍事面では強い。戦争を通じて国家が成立する。

国家以前の部族社会と比較して、国家社会の違いは:

第一に、王、大統領、首相といった中央集権的権威の源をもち、この源は階層構造の従属者に権限を委譲する。

第二に、権威の源は合法的な強制の手段を持ち、部族や地方が国家から分離するのを防ぐ。

第三に、国家の権威は領土内にだけ通用する。

第四に、国家は部族社会と比べて階層的である。

第五に、国家は宗教信仰によって正当化される。

ホッブスは、人間の自然状態は万人に対する万人の戦争であるとする。国民は自然な自由を放棄し、国家(リヴァイアサン)は生存権を保証するという基本的な合意があるという。部族社会から、社会契約に自然に移行して初期の国家が生まれたとは考えられない。部族社会は平等で部族の中では自由である。国家は強制的で威圧的である。

中国では秦が紀元前221年に初めて統一国家となった。中国古代の夏は政治単位3000、商(殷)が1800、西周は170、東周(春秋時代)は23、戦国時代が7。戦争によって国家制度が進化した。

インドでは強力な国家は生まれなかった。インドでは部族同士の激しい戦いはなく、原始的な首長制集団がBC500年位まで生き残った。インドの宗教は形而上的。インドでは宗教(バラモン教)が大きな影響をもった。バラモン教のジャーティ制度とヴァルナ制度が政治制度に制限を加えた。

イスラムでは軍事奴隷制度、マムルークが生まれ、オスマン帝国はイエニチェリという奴隷軍人を重用した。

西欧ではカトリック教会による、①近縁同士の結婚の禁止、②親類の寡婦との結婚、③子供の養子縁組、④離婚を禁止したことにより、親族集団が土地や財産を代々相続しにくくなり、部族制度が消滅した。 それに代わって西欧式の封建制が伸張した。