『満州と岸信介ー巨魁を生んだ幻の帝国』(太田 尚樹著、KADOKAWA、2015年9月25日発行)

岸信介を主に満州国をキーワードとして描いた書。

満州国昭和6年(1931)9月18日奉天郊外柳条湖満鉄路線爆破で満州事変が始まる。満州国で建国にあたっては日本の官庁から多くの人材が登用された。第一陣の出発は1932年6月らしい。岸信介は日本で産業開発計画をつくっていた。岸は昭和11年10月商工省工務局長から満州国国務院実業部総務司長に転出し、満州産業開発5か年計画が動き出す。これは主に重工業に資本投下された。

これに対して、石原莞爾主導の「満州農業移民百万戸移住計画案」は昭和11年5月に関東軍から提出され、同年8月に広田内閣で決定された。満州産業開発5か年計画の農業部門となる。

昭和12年7月7日日華事変で、満州が日本の兵站基地化。 

第二松花江に築いた豊満ダムは満州国の記念塔、岸が心血を注ぎ「完成してから終戦まで13年」、「満州の産業生産レベルと文化のレベルが、一段と高いレベルに達した」(星野直樹)(注)。

昭和12年12月には鮎川儀介の満業(満州重工業)がスタートする。

本書の記述は、岩波新書岸信介』と同じ内容が多い。

満州の地を中国本土から独立させようとする満蒙独立運動は、満州の地に清朝を再興する復辟運動でもある。

本書には岸の満州時代の人脈として甘粕正彦の話が出てくる。美化されすぎとしてもなかなか興味深い。甘粕に関係して、岸が満映経営立て直しのために甘粕を理事長にする下りは岸の権力闘争のやり口が良く分かる。関東軍の将校中に満映を食いものにしている人たちが反対していると見るや、憲兵をつかってその行状を調べ上げて、反対派を黙らせてしまうという箇所である。

昭和16年10月18日東条内閣の商工大臣となる。45歳、戦時経済である。昭和19年国務大臣兼軍需次官を辞任しようとしたが東条に引き留められる。7月サイパン陥落で敗戦を主張し東条と対立する。東条からの辞任要求に屈せず、閣内不統一で東条内閣を総辞職に追い込む。

このあたりの度胸と喧嘩上手は大変なものである。

本書は満州国については、岩波新書よりも詳しく参考になる箇所が多い。満州国については、いままで戦後の枠組みから見ていた点が多かったが、もう少し経緯を理解してみたいと思った。 

(注)豊満ダムは2018年に解体された。建設の過程は本書に書かれていることと少し違うようだ。

https://cc.nuis.ac.jp/library/files/kiyou/vol06/6_hirose.pdf

『岸信介 ―権勢の政治家―』(原 彬久著、岩波新書、1995年1月20日発行) - anone200909’s diary