『マルチメッセンジャー天文学が捉えた新しい宇宙の姿』(田中 雅臣著、講談社ブルーバックス、2021年12月20日発行)

宇宙からくるシグナルの観測は、光(19世紀)、赤外線、電波、X線(20世紀)、ニュートリノ重力波(21世紀)に広がる。

長さスケール

距離の測定:地球公転の年周視差は1万光年まで⇒明るさの分かっている星(標準光源)の明るさを使う(セファイド型:5000万光年まで、Ia型超新星:50億光年まで)。距離を梯子のように積み上げていく。

銀河系直径:10万光年。アンドロメダ銀河までは200万光年。

宇宙の年齢:138億年

質量スケール

太陽は平均的な質量をもつ。太陽質量を単位として使うことが多い。

シュバルツシルト半径とは光が脱出できない半径。太陽質量では3km。

電磁波の波長

ガンマ線X線⇒紫外線⇒可視光⇒赤外線⇒電波

波長の長い波は空気中の粒子で散乱されにくい。紫外線やX線は空気中の分子や原子が吸収してしまう。

ブラックホールX線源。降着円盤は100万度になり輝く。超新星爆発の爆風もガスを100万度以上にし、X線源となる。

ガンマ線は100億度。ブレーザーは相対論的ジェットを放つガンマ線源。例:M87銀河

電波は冷たい宇宙を観測する。アルマ望遠鏡は66台の電波望遠鏡群の結合。2019年EHTでM87銀河のジェットの根本ブラックホールの影をとらえた。M87迄5500万光年。光の輪の半径は太陽と地球の300倍程度。ブラックホールの質量は太陽の65億倍程度。ほとんどの銀河の中心には超巨大ブラックホールがある。

星の一生と元素

太陽では水素からヘリウムへの核融合、太陽は100億年分の水素がある。50億年位でヘリウムの中心核がつぶれる。すると圧力が上がり、ヘリウムから炭素への核融合が起きる。炭素とヘリウムから酸素ができる。星の外層が膨らんで表面温度が下がり、赤色巨星になる。

大質量星(太陽の10倍以上)では中心の鉄ができる玉ねぎ構造になる。鉄は核融合しないので、重力崩壊となり、中心に芯ができる。このときニュートリノの助けで芯の外側が爆発するようだ(重力崩壊型超新星)。芯が中性子星として残る。ブラックホールができるかもしれない。そのメカニズムは未解明だ。重力崩壊型超新星爆発はスペクトルから型に分類できる。

軽い星は核融合が止まり縮小するが、爆発しないで縮退圧で大きさを保ち、白色矮星となる。周りのガスは放出され惑星状星雲となる。連星系になっていると、一方の星からガスが移動したり合体したりして、再度核融合が始まることがある。核融合型爆発に至る。ケイ素が大量にできる。

鉄は陽子を26個持ちもっとも安定した元素だ。原子核中性子がくっつき、中性子ベータ崩壊して陽子に変わることで、鉄より重い元素ができる。中性子捕獲反応にはr(速い)プロセスとs(遅い)プロセスがある。これらがどこで起きるか?

ガンマ線バースト

ガンマ線を放出するには光に近い速度で動く物質の存在が必要。ブラックホールからのジェットによるとみられる。

中性子星合体

0.001秒から1秒の周期の電波を発つパルサーは、高速に自転しかつ強い磁場をもつ中性子星である。宇宙の電波灯台といえる。

連星中性子星で互いの周りをまわると重力で引き合って近づき、公転周期が短くなる。重力波が出ている。最後は合体し、ブラックホールになるか、新しい中性子星になる。このとき一部が飛び出す。中性子星合体ででる電磁波をキロノバという。

ニュートリノ天文学

核融合、放射性崩壊でニュートリノが作り出される。ニュートリノは物質と相互作用しにくいので観測しにくい。ニュートリノを観測するには大量の物質を用意して、相互作用でできるガンマ線や光を検出する。スーパーカミオカンデは5万トンの超純水を用意。南極のIceCubeは氷を使う。

素粒子クオークレプトンに分かれる。レプトン荷電レプトンニュートリノに分かれる。荷電レプトンは電子、ミュー粒子、タウ粒子に分かれる。ニュートリノは電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノに分かれる。素粒子反粒子と呼ばれるペア粒子が存在する。

太陽は電子ニュートリノを出すが、観測すると理論的な予想よりも少ない。これは三つの種類のニュートリノが互いに入れ替わるニュートリノ振動による。

超新星ニュートリノ中性子星合体のニュートリノ、高エネルギーニュートリノ

重力波天文学

重力波望遠鏡LIGO(米、4km、2台ある)、Virgo(欧州、3km)、KAGRA(日本、2020年から観測開始)。

重力波を放つコンパクト天体の合体では100kHz程度の周波数の重力波がでるので、それを観測しやすいように設計されている。7億光年先まで見られるので1年1回以上の観測を期待できる。GW150914は初の重力波観測イベント。36太陽質量と29太陽質量のブラックホール合体で62太陽質量のブラックホールができた。13億光年先で起きた。

2015年から2020年の5年間で50例以上のブラックホール合体が報告されている。

超新星爆発の観測

大マゼラン雲(15万光年の距離)の中のSN1987Aは2月24日5時頃発見された。Ⅱ型超新星カミオカンデでも11イベントのニュートリノを観測した。ニュートリノは可視光より早く届いた。ニュートリノと光の速度は9桁精度で一致する。ガンマ線X線でも観測された。

中性子星合体の観測

GW180817は中性子星の合体の初観測。重力波望遠鏡3台で観測したので方向が分かった。重力波の1.7秒後にガンマ線が届いた。11時間後に光が届いた。距離を直接推定でき、ハッブル定数も計算できる。中性子星の合体でショートガンマ線バーストが起きることが観測された。キロノバができた。歴史的なマルチメッセンジャー観測となった。

中性子星合体は1銀河あたり10万年に1回だが宇宙空間の重元素の総量を生み出し得る。

GW190425が第2例目の中性子星合体だったがLIGOのみでの観測のため位置が分からず。2020年には中性子星ブラックホールの合体が2例観測されたが、両方ともブラックホールに吸い込まれてしまったらしく、マルチメッセンジャー観測は進まなかった。

高エネルギーニュートリノ天体の観測

10の20乗電子ボルトのエネルギーをもつ宇宙線がいる。10の15乗電子ボルトのエネルギー以下の宇宙線超新星爆発で作られるという説が有力だが、其れより大きい宇宙線の起源は分からない。高エネルギー宇宙線は高エネルギーニュートリノを作り出す。IceCubeはその観測用。2016年からIceCubeのデータはリアルタイムに公開されている。IceCube170922Aで高エネルギーニュートリノを観測したとき、ブレーザーの可視光の明るさが大きく変化した。しかし、ブレーザーは本命ではなさそう。本命がなにかは分かっていない。

多波長重力波天文学

巨大ブラックホールの合体から100Hzより低い低周波重力波が生まれる。宇宙に重力波望遠鏡を作るLISA計画。