『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56下巻』(アン・アプルボーム著、白水社、2019年3月発行)

下巻は、スターリンによる東欧の支配=スターリニズムが浸透していく過程から、最終章の1953年3月6日のスターリンの死を経て6月17日のベルリンでの暴動、1956年10月のハンガリー動乱まで。

1948年には東欧諸国は選挙プロセスを通じて正当性を獲得する試みを断念。真の反対派を許容することをやめる。教会など宗教団体も国家プロパガンダの普及媒体に変更する工作を始めた。宗教団体への迫害。すべての組織、活動、催しが共産主義運動を普及する手段となる。

共産主義イデオロギーを強制する政治警察・政治体制のもとで、民衆が自分の心中を押し隠して生きていく状況では労働も重たいノルマとなる。労働にしても何にしても、自発的なものにならないとあまり活発化しないで沈滞してしまうことが分かる。

1945年10月から46年6月までの時期に、ドイツのソ連管轄地域から米英管轄地域へ逃げた人は約160万人(p.263)という数字が、自由を抑圧するスターリニズムがいかに嫌われたかを示している。

『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56 上巻』(アン・アプルボーム著、白水社、2019年3月発行) - anone200909’s diary

『アイスランドからの警鐘 国家破綻の現実』(アウスゲイル・ジョウンソン著、新泉社、2012年12月25日)

アイスランドは、1998年から2008年10月まで世界有数の金融帝国を築いたが、リーマンショックでわずか一週間で崩壊した。

本書ではアイスランドの銀行の簡単な歴史を説明したあと、金融帝国となるまで、崩壊の状況を分析している。読んでみると、内容は面白そうなんだけど、翻訳文が理解しにくいのが難点である。

図書館から借りだしたが、途中で読むのを断念した。文章が読みにくすぎる。

『ディープインパクト不況 中国バブル崩壊という巨大隕石が世界経済を直撃する』(真壁昭夫著、講談社α新書、2019年11月20日発行)

中国バブル崩壊に備えよ、というのが本書のメッセージである。確かに現在の世界経済において中国の占めるウェイトは大きい。本書では、現在、中国経済成長の限界にきており、今後、中国経済が大失速すれば、ドイツを始めとするEU、日本経済はかなり大きな停滞に陥る危険があるという。知りたいのはそのシナリオの現実化する可能性、時期、果たしてどの程度のインパクトになるかだ。

改革開放政策(1978年)以来中国が爆発的な発展を遂げてきたのは周知の事実であり、またリーマンショックの際(2008年11月)に中国が巨額(4兆元、邦貨57兆円)の景気刺激策を行うことで世界経済の落ち込みが緩和されたと言われる。

中国の経済運営体制は、国家独占とはいえないが、政治的には共産党独裁下での管理自由経済という特殊なシステムである。ここは、すでに経済運営に失敗したソ連のような仕組みとは異なる。個人的には、中国のような経済運営体制に果たしてどの程度の永続性があるかは大いに関心がある。これまでは良くやってきたという印象を受けているが実際はどうなんだろう。本書には経済のなかで政治的に決まる部分にいろいろ問題を上げている。

株式市場では2014年11月香港と上海で株式相互取引制度が発足し、本土では2014年~2015年に株価が倍以上となる。2015年夏に株式は下落に転ずると上場企業の大株主に株式売買6ヵ月禁止措置をとる。その後も株式が下落すると「国家隊」がPKO。このように、株価がかなり人為的に操作されている部分がある。

中国では土地は国の所有物なので利用料を販売する。都市部での住宅価格の上昇は金融によって政策的に調節される。本書では不動産バブルを強調しているが、これは本書を読んでも理解できない。高速鉄道、地下鉄などのインフラ事業においても経済性を無視した過剰投資の問題が蓄積されているようだ。

製造業は中国離れしつつある。第一に中国のコストが大きくなったので、コスト削減にはアジアの他の国への移転が必要となる。第二にトランプの対中貿易戦争政策によるグローバルビジネスサプライチェーンの見直しがある。

中国のさまざまな問題が述べられているが、中国の不動産バブル崩壊というキーワードが頻出しており、本書で未来を予想するときのスキームが理解しにくい。本書には中国バブル崩壊の影響が大きい、大きいという言葉が連呼されるがあまり説得力を感じない。

『危機と人類 下』(ジャレド・ダイアモンド著、日本経済新聞出版社、2019年10月25日発行)

下巻では、ドイツの再建、オーストラリアの変化について述べ、現在進行中の危機として日本、米国について述べる。

ドイツが東西に分割され、そして再統合された近代の歴史は学ぶべきところが多い。東西ドイツで生まれた生活水準と経済力の差は、東ドイツの人々が自分達の生活を向上させるために懸命に働くことをしなかったため(p.16)と思うが、経済の奇跡と呼ばれる経済回復(p.19)で差がついたのかもしれない。1961年ごろにはイギリスより西ドイツが繁栄していたという(p.19)。

 ニュルンベルク裁判や連合国による非ナチ化は勝者の裁きであって、ドイツ人が自ら裁いた訳ではない。当初はドイツ人自身はナチスを追及できなかった。1958年西ドイツにおいてナチスの犯罪追及機関ができた(pp.22-23)。フリッツ・バウアー「ドイツ人はみずからを裁くべし」(p.27)、「善悪の判断の基準は一人ひとりがもつべきであり、政府に左右されるものではない」(p.25)。

1968年の抗議活動は暴力的で失敗したが、思想の多くは主流派に採用された(pp.28-33)。権威主義からリベラルへ。

ヴィリー・ブラント外交政策:否認から国交樹立へ。1969年東ドイツと条約締結。1970年ワルシャワ・ゲットーで謝罪(p.38)。その後の政権が踏襲し、東側諸国と和解を図る。東ドイツの終わりの始まり(p.39)。

 1989年5月ハンガリーオーストリアの国境の柵が撤去される。9月11日東ドイツからチェコハンガリー経由で西へ脱出する。11月9日西ドイツへの旅行許可(p.40)。

西ドイツの首相はみな現実的で政治感覚が優れていた。外交政策ビスマルクの言葉「神が世界史のどこを歩んでいるか、そしてどこに向かっているかをつねに見極めよ。そして、神の衣の裾に飛びつき、できる限り遠くまで振り落とされぬようにせよ。」に従っている(p.46)。

第8章は日本の現代の問題である。

強みは経済(世界第3位)だが軍事費の負担が少ないのは問題かも(p.114)、人的資本である。問題点は国債発行残高が巨額なこと、女性の役割に問題、新生児が少ない・他国と比べて婚外子も少ない(伴侶を見つけられない)、高齢者が多く、移民が少ない、中国と韓国との関係が悪い(pp.132~136)、自然資源の管理に非協力(pp.136~141)。

第9章はアメリカ。優位性は富と地理、社会的流動性、移民。問題は政治的な妥協が衰退しており、妥協の拒否がエスカレートしていること。議員のみならず、アメリカ人全体が非妥協的になっている。不寛容・暴力的言動が増えている。電子的コミュニケーションが増えたことが原因かもしれない(p.181)。

 

『危機と人類 上』(ジャレド・ダイアモンド著、日本経済新聞出版社、2019年10月25日発行)

個人的危機に際して、それを突破するための要素を類型化し、国家的危機にも敷衍してみようという野心作である。但し、ちょっとあまりにも大雑把すぎるような気がする。国家の危機のパターンを簡単に類型化できるものなのかどうか疑問を感じるところもある。

上巻では日本の明治維新が危機突破のひとつの例として取り上げられており、その反対の例として昭和の軍人たちの判断ミスが簡単に紹介されている。特に日本のあたりがどのように書かれているか興味をもって読んだが、やはり要約のし過ぎで日本人からみるとつまらないものになっている。

フィンランドの危機、チリの危機、インドネシアの危機などまったく知識をもっていなかった国の危機(とその後の変遷)と現在までの変化が簡単にまとめられている。それぞれ何も知らなかったので、それなりに興味深い点もある。しかし、まとめすぎていて少し浅すぎるような気もする。それぞれを理解しようと思うと、もう少し詳しい記述が欲しくなる。

一言で言ってしまうと、分析の視点としては面白いが歴史の理解としては深さがたりない。下巻には米国について、あるいは現代の日本についてが出てくるので、その現代的な様相をどのようにまとめているか、は興味がある。

ということで、上巻はイントロダクションと言っておくと良いかもしれない。下巻に期待する。

 

『ウォーキングの科学 10歳若返る、本当に効果的な歩き方』(能勢 博著、ブルーバックス、2019年10月発行)

インターバル速歩とは、本人がややきついと感じる早歩きと、ゆっくり歩きを3分間ずつ交互に繰り返すというウォーキング方法である。それを1日5セット、週4回以上繰り返すと、5か月間で体力が20%向上する。(「はじめに」より)

具体的にインターバル速歩は次のように実践する。
・軽い運動のできる服装で底が柔らかく踵にクッション性のある靴を選ぶ。
・視線は25m先に向けて、背筋を伸ばした姿勢で歩く。
・できるだけ大股であるく。腕を振ると良い。
・スピードは「ややきつい」と感じる程度。5分間あるけば息が弾み、動悸がする程度。
・速歩の時間は3分を基準とする。
これを週4回以上繰り返す。一週合計で速歩きの時間が60分以上になるようにする。これを5か月繰り返せば効果がでる。(pp.97-98)

30歳を過ぎると男女を問わず体力が少しずつ低下する。これは、加齢による筋力の低下が原因である。(pp.27-28)

最近は、体力の低下が高血圧、糖尿病、肥満といった生活習慣病の原因になると考えられるようになった。生活習慣病にとどまらず、認知症やがんに至るまで、中高年特有の疾患の根本原因は、加齢性筋減少症に伴う体力の低下である可能性が高い(p.28)。

体力低下は加齢によるミトコンドリアの機能低下が原因ではないか? 

持久力を表す指標:最高酸素消費量(最大酸素摂取量) ミトコンドリアブドウ糖脂肪酸を燃やしてアデノシン三リン酸(ATP)を生成する能力。加齢で低減する。加齢による筋力の低下が原因。

筋力とは筋収縮力と筋持久力。筋収縮力はー速筋ー太く速く白い、およびー遅筋ー細く遅く赤い、がある。

運動強度と速度によってエネルギー源が適宜変更になる。運動時のエネルギー源は最大酸素消費量の50%以下だと糖質:脂質=4:6、60%で6:4、100%で100:0となる。

体力の低下を防ぐために、1日1万歩歩くというような方法が勧められているが、松本市の「松本市熟年体育大学」事業に著者が協力した中で、その効果の検証を行ったところ、体力の向上はほとんど見られなかった。これはおそらく、普通に歩くだけでは運動の強度が弱すぎるためだろう。(pp.51-52)

一般には持久力と筋力の2種類のトレーニングがあるが、それらは、アスリートや若者向けに考えられているものが多い。インターバル速歩は持久力系だが、持久力と筋力のトレーニングどちらでも最高酸素消費量があがるので中高年は二つを区別する必要はないだろう。また、マシンを使ったトレーニングは効果があるが、時間の制約やコストが大きすぎてゆとりのない人には採用しにくい。(pp.59-62)

著者たちが考え出した「インターバル速歩」は実践しやすいのが特徴である。例えば、きつい速足を30分間やってほしいというとみな逃げてしまい、継続できない。(p.211)

それに対してインターバル速歩は定着率が高い。つまり、継続してやれるのである。(pp.113-116)

インターバル速歩を実践した結果として、最高酸素消費量などの指標でみる体力が上がる。体力が上がると生活習慣病の指数が下がる。生活習慣病は体力強化で予防できるだろう。(p.74)

 

f:id:anone200909:20191225131801j:plain

 

『運気を磨く 心を浄化する三つの技法』(田坂 広志著、光文社新書、2019年10月30日発行)

運気という言葉はあまり意識したことがなかったが、要は運が良いか、悪いかとと言ったときの「運」である。運を信じるか、信じないかと正面から問われれば答えに窮するが、自分でも実際によくそう思うことがあるのは、たぶん信じているのだろう。

運を良くするには、心の中からネガティブな要素をなくす、ということが重要なのだと本書にいう。それについては合意する。心の中からネガティブな要素をなくすべきというのが幸せに生きていくための知恵なのだが、なかなか実行できない。実際、もう忘れかけていたのを、本書を読んだおかげで思い出した。

そういう意味で、ときどき本書を手に取って反省するために良い本だ。

本書は天風哲学に似ているところがある。天風と同じで、単に言葉だけではなくどうしたら実践できるかを説いている。