『本当にわかる 債券と金利』(大槻 奈那・松川 忠著、日本実業出版社、2017年2月1日発行)

本書では、2013年4月4日日銀の異次元緩和、それに続く2016年1月29日のマイナス金利が話題の中心なのだが、日銀のマイナス金利政策は「銀行が日銀に預けている準備預金の一部に適用される金利をマイナスにする」というもの。

マイナス金利によって国債金利もマイナスになった。これはどういうことか?

債券にはクーポン(利札)がついている。額面金額が100円でクーポンが1%であれば年1円の利子が支払われる。債券投資は利子を定期的に受け取りつつ、償還時に元本を返してもらう。従って、デフォルトしなければ元本割れで損失を被ることはない。債券は途中で評価がさがるとしても償還では100%戻る。

最終利回り=償還まで保有したときの利回り。債券は市場で取引される。市場で取引される債券価格が上昇すると利回りは下がり、取引価格が下がると利回りは上がる。

償還まで1年、クーポン年2%の債権が額面100円に対して103年で取引されたとする。クーポンがあっても、最終利回りは次のように、

2円+(100円―103円)=-1円⇒-1% 

キャピタルロスが生じてマイナスになる。

このことは国債の購入意欲が高まったことを意味する。なぜ購入意欲が高まったか?本書ではいくつか理由が説明されている。その一つは金利マイナスであれば、償還まで保有すれば損をするが、短期であれば値上がりする可能性があるので、値上がりしたところで売れば利益を出せるからとのことだ。しかし、これは最後に買う人がババを引くことになるのは明らかである。他には、海外投資家から見るとドルから円に転換して購入すればプラスの利回りを期待できる、こともあるという。この辺りは、完全にプロの世界である。

日銀のマイナス金利導入後、日本国債の利回りは3か月ものから10年国債まで幅広くマイナスになっている。イールドカーブが右肩上がりの区間においては、1年保有すると、1年分だけ利回りが下がる(=価格が上がる)のでキャピタルゲインを期待できる。短期国債には担保価値があるので需要がある。担保需要によってより深いマイナス金利でも取引される。

しかし、このようなマイナス金利国債は一般投資家は買えない。この結果、プラス金利の長期国債に需要がシフトして、その結果、15年以上の長期国債の利回りも低下した。これはイールドカーブのブルフラット化現象である。しかし、マイナス金利は銀行経営に対する悪影響が大きい。日銀のマイナス金利導入は景気へのプラス効果は見えていないので、マイナス金利政策は失敗ではないか?

クレジット投資とは、信用リスクのある一般債に投資すること。事業債などは上乗せ金利(スプレッド)がある。ソフトバンㇰのスプレッドは動きが激しい。スプレッドの変更が大きいのはトレーディングからはプラスと見ることができる。

以上のようなまさに現代的な国債金利の話に加えて、国債の歴史を簡単に解説しているが、実務面で歴史に学ぶことがあるんだろうか? このあたり、本書は、実務書なのか、啓蒙書なのか位置づけがよく分からない面がある。まあ、実務書としては一般投資家の役には立たないだろう。債券というのはどうやらプロの世界であって、一般の投資家が簡単に売り買いするものではないという印象が強い。