2019-01-01から1年間の記事一覧

『フェイクウェブ』(高野 聖玄著、文春新書、2019年5月25日発行)

インターネットが、明るい希望に満ちた世界だったのは25年前の話で、いまのネットは油断も隙も無い、悪意に満ちた世界になってしまっている。 本書の冒頭で、JALが2017年12月20日にフェイクメールで3億円以上詐取されたというニュースの紹介があり、びっ…

『漢帝国―400年の興亡』(渡邉 義浩著、中公新書、2019年5月25日発行)

前漢、後漢から三国の時代までを儒教国家という観点を中心に解説している。儒教は前例をもって判断するようだが、前例となる事柄をまとめる作業が重要らしい。 『史記』、『漢書』という二つの史書の観点あるいは狙いの相違とか、名士の成立とか、随所に興味…

『債務、さもなければ悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?』(アデア・ターナー著、日経BP社、2016年12月27日発行)

2007~2008年の世界経済危機、リーマンショックという大惨事の経験をきっかけとして、これを予想できなかった主流派経済学や金融政策への根源的批判の書である。 債務は株と違って返済されるのが原則であり、不確実性が小さい。しかし、破綻するとかなり大き…

『マルヌの会戦 第一次世界大戦の序曲■1914年秋』(アンリ・イスラン著、中央公論新社、2014年1月10日発行)

1914年夏の第一次大戦の冒頭、ドイツ軍の大軍団は、シェフェーリン計画に従ってフランス国内に殺到する。8月2日ドイツ軍はリュクセンベルグ大公国に侵入、ベルギー政府に通過の自由を要求する。4日にベルギーに戦線布告。8月24日までの時点でフランス軍の北…

『候補者ジェレミー・コービン』(アレックス・ナンズ著、岩波書店、2019年4月)

2015年5月のイギリス労働党党首選で、ずっと泡沫候補と考えられていた労働党左派ジェレミー・コービンが候補者となり、大勢の予想に反して党首に選ばれた。さらに、2017年6月の総選挙では、トニー・ブレア以来の歴史的な躍進でテリーザ・メイの保守党を単独…

『IMF 世界最高司令部20ヶ月間の苦闘 下』(ポール・ブルースタイン著、楽工社、2013年12月2日)

1998年1月インドネシア クリントン大統領、コール首相、橋本首相らがスハルトにIMFの方針に従うよう説得。1月15日IMF強化プログラムに署名。KKN構造改革をさらに進める。スハルトは改革する気があるのか? 合理的なのか? 改革プログラム発表で市場は反応せ…

『IMF 世界最高司令部20ヶ月間の苦闘 上』(ポール・ブルースタイン著、楽工社、2013年12月2日)

IMFの通貨危機対処に関するドキュメンタリーである。上巻では、IMFという組織の歴史やスタッフ教育などから始まっている。 IMFと世界銀行は1944年のプレトンウッズ体制としてつくられたが、ドルは固定相場制が維持できなくなった。 IMFのスタッフ教育は、IMF…

『ウオール街のアルゴリズム戦争』(スコット・パターソン著、日経BP社、2015年11月発行)

1990年代から2010年代初頭までの、米国の株式市場が完全に電子化され、急速に変化する過程を取材したドキュメンタリーである。高速トレード(HFT)の勃興による、取引のアルゴリズム戦争化はほとんど信じられないほどである。 動きの速いボットによるフロン…

『経済の大転換と日本銀行』(翁 邦雄著、岩波書店、2015年3月発行)

2007年夏からの金融危機以後、各国の中央銀行は、為替市場への無制限介入、量的緩和、フォワードガイダンスによる期待への働きかけなどの非伝統的金融政策を取り始めた。本書の論点の第1は非伝統的金融政策が効果があったかどうかについてである。文章が入…

『バリュー投資』(クリストファー・H・ブラウン著、日経BP社、2007年12月17日発行)

株式の企業価値に比べて割り安に評価されている株を買う、バリュー投資の本。株式投資の指南書としては非常に優れていると思う。お勧め。 バリュー投資は、ファンドマネージャの中では少数派p.18 株を買うべき時は安売りになっているときである。人気銘柄を…

『「円安大転換」後の日本経済 為替は予想インフレ率の差で動く』(村上 尚己著、光文社新書、2013年3月20日発行)

この人はリフレ論者であり、金融緩和を為替レート、あるいは為替相場への投資の観点でみているようだ。全体的に相関関係を因果関係と見做す論理展開が多い。例えば、デフレと自殺者に因果関係があると見做している。(p.88) また、出来事を為替レート中心…

『日本の景気は賃金が決める』(吉本 佳生著、講談社現代新書、2013年4月20日発行)

「モノやサービスの物価がじわじわと下がる現象を、デフレと呼んでいます。」p.12(※そうなのか? 急激に下がったらデフレではないのか?) 景気と賃金格差の話をしたい。 低所得層は消費性向が高い80%~高所得は低い70%⇒低所得の人達は景気回復への貢献度…

『ヒマラヤ世界 五千年の文明と壊れゆく自然』(向 一陽著、中公新書、2009年10月25日発行)

第1章~第3章は4月、ネパールのヒマラヤ登山のベースになるエベレスト街道を巡る3週間の旅の記録。登山ではなく山歩き=トレッキングにあたる。ルクラ空港から入り、パグディン、ナムチェ、プロチェ村など。トレッカーのためのロッジが一杯あり、年間十万人…

『金融政策に未来はあるか』(岩村充著、岩波新書、2018年6月20日発行)

失われた20年は日銀が失わせた20年である。 中央銀行の金融政策を論じる。 バブル崩壊で日本経済の風景は一変した。バブル崩壊は株価の暴落から土地価格の低下に繋がる現象。 1991年2月景気のピーク~1993年10月まで32ヶ月下降。 2002年1月から2008年2月まで…

『ロボットは東大に入れるか 第三次AIブームの到達点と限界』(新井紀子・東中竜一郎著、東京大学出版会、2018年9月発行)

AI

国立情報学研究所のプロジェクト報告である。2011年に開始され、試験問題を解いてスコアを計測し、改善を目指した。5年目で合格率80%判定は私大の80%、国公立大学では5%程度となる。5年目の2016年にこれ以上のスコアを短期間で改善するのは困難としてセン…

『印刷のできるまで』(富士フィルム グローバルグラフィックシステムズ著、印刷学会出版部、2016年6月発行)

CIE Commission Internationale de l’Eclairage 国際照明委員会 CIE L*a*b*表色系 CIE XYZを知覚的に理解し易くするために考案された Lは明度、a軸は+がRed、-がGreen。b軸は+がYellow、-がBlue。 RGB、CMYKは装置に依存するデバイス・デペンデントカラー …

『クリエーターのためのカラー印刷ゼミナール』(石川 英輔著、印刷学会出版部、1985年10月5日)

カラー印刷の大部分は平版で行われている。ポスターはすべて平版である。 製版は、原稿+版下+指定紙で開始する。カメラ作業、ネガ、ポジ、校正版、校正刷り。 カメラは網取り=網点で表現する。リスフィルムにコンタクトスクリーンをかけて撮影する。 オフセ…

『イギリス帝国の歴史 アジアから考える』(秋田茂著、中公新書、2012年6月発行)

以前に読んだ記憶がある。ところどころ文章にも写真にも記憶がある。しかし、ブログには纏めていない。 主にグローバル経済、特にアジアとの取引関係を中心とするイギリス経済史とも言える。なかなか面白い視点である。グローバル化は現代的トピックかと思っ…

『光と色彩の科学』(齋藤 勝裕著、講談社ブルーバックス、2010年10月20日発行)

単色の黄色と混色の黄色がある。単色の黄色はスペクトルで分析された色。それ以上分かれない。混色の黄色は赤と緑を混ぜた結果なので、赤と緑に分離できる。 光に色彩があるのではない。光を感じるのは視細胞。視細胞には桿状細胞と錘状細胞がある。桿状細胞…

『日本を救ったリフレ派経済学』(原田泰著、日経プレミアシリーズ、2014年11月10日)

リフレ政策とは、デフレによる弊害を解消するため、金融政策によって物価を上昇させる政策である。 第1章 リフレ政策でこんなに変わった を読みはじめ、随分と乱暴な論理展開が多い気がする。学者の論ではなくて、暴力団の論だ。 「先進国のインフレ率は2%…

『平成不況の本質』(大瀧雅之著、岩波新書、2011年12月発行)

マクロ経済学者的な論である。この間読んだ、『平成金融史』で、如何に銀行が守られているかを見たら、この金融批判論にもかなり同意できる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー グローバリゼーションとはアメリカの金融・農業・製造業の貿易自由化を核と…

『平成金融史 バブル崩壊からアベノミクスまで』(西野智彦著、中公新書、2019年4月発行)

実に良く取材している。平成のバブル崩壊とその対策の素晴らしい整理である。現在行われている黒田バズーカ異時元緩和の結果はまだどうなるか分からない。しかし、いままでの整理のみでいうならば、小手先の対策と先送りで傷を深くした印象がある。では直ち…

『自然言語処理の基本と技術』(小町守監修、奥野陽、グラム・ニュービッグ、荻原正人著、翔泳社、2016年3月発行)

本書は概説書で大凡どんな技術があるかが分かる。 自然言語処理の応用:日本語入力、機械翻訳、検索エンジン、対話システム、質問応答 日本語形態素解析エンジン:JUMAN⇒ChaSen⇒MeCab⇒Sen/GoSen 2010年代の形態素解析器:KyTea、Kuromoji 1990年代:統計的自…

『宇宙はなぜ「暗い」のか』(津村 耕司著、ベレ出版、2017年1月25日発行)

宇宙に無数の星が存在すれば(無限の空間に無限の星が存在すれば)、その星からの光で夜空が明るくなるはず、を「オルバースのパラドックス」という。これがなぜ誤りかを主題とする。 しかし、そもそも無限の空間に無限の星が存在するという前提が誤っている…

『アラビアのロレンス 世界史の十二の出来事 権力の偉大と悲惨 中野好夫集 Ⅶ』(中野好夫著、筑摩書房、1984年2月刊)

たった35年前に刊行された本だが、文章が如何にも古色蒼然、大時代風だ。もちろん古典のような文章ではないが。内容も今風ではない。何が違うかというと、SNSに毒された現在あるいは今風の文章では、タメグチ、短文主体なのだが、中野好夫の文章は語り下し風…

『おうちで学べる人工知能の基本』(東中竜一郎、翔泳社、2017年11月発行)

AI

人のニューロンの配線:ヒト・コネクトーム 周囲の環境だけに反応するロボット:ルンバ 人工知能第一次ブーム:記号処理 ・ELIZA。ユーザーの言葉を受動的に受け取るだけ。 ・SHRDLU:シャードル ・フレーム問題 ・役に立たず下火になる。 第二次ブーム:知…

『新西洋事情』(深田 祐介著、北洋社、1975年9月30日)

西洋事情というよりは、日本企業の駐在員事情というべき内容だが、本書は企業戦士のもの悲しさが一杯に漂ってくる。 特に最後のモスクワ郊外60キロは悲しい。企業のために働く人間の悲哀である。 深田祐介氏の著書を読んだのは初めてだが、文章はかなり饒舌…

『ディープラーニングG検定公式テキスト』(浅川伸一他著、翔泳社、2018年10月発行)

AI

機械学習:データのルールやパターンを自動的に学習 ニューラルネットワーク:人間の脳神経を模した学習モデル 単純パーセプトロン 三層パーセプトロン ディープラーニングーーニューラルネットワークを多層化したもの。隠れ層を増やしたニューラルネット。…

『僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない』(ジョージ・チャム+ダニエル・ホワイトソン著、ダイヤモンド社、2018年11月発行)

まだ答えの出ていない大問題について纏めた本。 宇宙は何でできているのかが分からない。粒子では5%程度しか説明できない。27%のダークマター。68%は正体が不明。ダークエネルギーと呼ばれる。 ダークマターの存在は、宇宙の回転のスピードが星の数より速…

『敗北者達 第一次世界大戦はなぜ終わりそこねたのか 1917-1923』(ローベルト・ゲルヴァルト著、みすず書房、2019年2月発行)

本書を読むと、20世紀の前半は世界中で清算な暴力の嵐が吹き荒れた時代であったという印象が強くなる。特に、第一次大戦で戦争が総力戦となり、大がかりな殺戮の場所となった。一方、戦争の間の期間について、これまでは、第一次大戦と第二次大戦の間に、つ…